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すでにこの国も、毎年一・2ミリずつ水位が上昇しており、ボルネオ島の南部の低湿地帯では、30年前に比べて海水が15キロも内陸に入り込むようになってきた。
第一章で見たように、インドネシア政府は人口過密のジャワ島、バリ島などから、カリマンタン島などのこれらの過疎の島へ大規模な集団移住政策を進めている。
この移住先の多くが、実は海面上昇でもっとも被害を受けやすい低湿地に当たっていた。
というよりも、土壌条件が悪いためにこれまで放って置かれた一帯に、移住者を送り込んだ、といった方が当たっているかもしれない。
この政策は、移住先の熱帯林で送り込まれた移住者が大々的な焼き畑を行ったために、熱帯林保護グループが国際的に反対運動を展開してきた。
ここにきて、いずれ水没する地域に移住させるのは「棄民政策」だとする批判が高まってきた。
刻々と上昇する海面地球温暖化を調査している国際的な専門家会議「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の作業部会は、1990年2月に「地球温暖化によって海面が一メートル上昇すると、世界で少なくても3億人が影響を被る」とする内容の報告書をまとめた。
そして、今後数千万人が恒久的に移住しなければならなくなる場合もあるとして、先進国に対して、海岸地帯の住民の移動のための費用の援助や、受け入れなどの態勢をとるように求めている。
二酸化炭素やフロンガスなど「温室効果ガス」の大気中への蓄積によって、地球の気温が上昇する海面上昇の程度は各種発表されているが、未知の要素が多くて幅の大きなものになっている。
「温室効果ガス」の増加がこのまま続くと仮定すると、21世紀末までに、米国環境保護局(EPA)は56〜345センチ上昇すると予測している。
この中のもっとも速い上昇速度をとると、つまり、50年後には1メートル前後上昇することになる。
米国科学アカデミーは50〜200センチを見込んでいる。
控え目にみても、2030年ごろまでには15〜60センチ程度は海水上昇は覚悟する必要があるとする専門家は多い。
これだけの上昇でも、開発途上国の低湿地やサンゴ礁を抱える国にとっては、国の存亡に関わる脅威だが、上昇の影響は先進国にも平等にやってくる。
4面を海に囲まれた日本も影響は深刻になして2・4年に発表した。
これまでも、地球温暖化の論議のときには必ずや海面上昇が語られてきた。
それは、「いつか遠い先」の半ばSFの世界だったが、ここにきてにわかに現実味を帯びてきた。
カナダのトロント大学の研究グループは、世界各地で10年以上観測を続けている約500カ所のデータをもとに計算したところ、世界の海面は最近の100年間で毎年一・5〜3・3ミリ、平て2・4ミリずつ上昇しており、今世紀に入ってすでに14センチも水位が上がったと発表した。
各地で発見される貝塚から当時の海岸線を再現してみると、海面は今より数メートル高く、関東平野の奥深くに海が入り込んでいたことが分かる。
もしかしたら、こんな時代がまたやってくるのだろうか。
海面上昇の不安から、オーストラリアでは気の早い動きが現れている。
シドニー北部のワリンガシェァは、シドニー一帯の海岸地帯の65パーセントを占めているが、最近、市議会は海面上昇に備えて、海岸地帯の土地はゴルフ場や駐車場に限って、新たにビルを建設することを禁止した。
また、海岸線に沿って排水パイプ網の建設を急いでいる。
アデレード近郊のソーリスベリ市議会は86年に「新たな開発計画は海面が次の50年間に40センチ上がることを想定しなければならない」とする法案を採択した。
ビクトリア州ワーナンブールでも同じような規則を決めたが、住民の訴えに対して同州の裁判所は「まだ温暖化の証拠は不十分で、時機尚早だ」として否決した。
89年の12月には、イタリアのベネチアで初めての「水辺都市会議」が開かれた。
世界各地の海辺にある都市の代表や建築家、科学者が集まって、温暖化で水位が上がった場合に備えて対策を話し合った。
地盤沈下に悩むベネチアでは、高潮から町を守るために2兆5000億リラ(1700億円)の予算でアドリア海の入り口に3カ所の可動式の水門の建設を開始した。
西ドイツのハンブルクは北海から110キロも離れているが、エルベ川が氾濫して何度か洪水の被害を受けている。
海面が上昇すればさらにこのような被害が増えることから、その対策が論議をIPCCの作業部会建海面が一メートル上昇すれば世界で数千万人の移住が必要になるのでは、と推定している。
砂漠化、土壌侵食、熱帯林喪失などによって、故郷の家や畑や放牧地を失って放浪する「環境難民」が世界的に急増している。
すでに数千万人から一億人が難民化しているとも推定される。
この海面上昇によって、「環境難民」に「高潮難民」が加わることになる。
オランダ政府の気候変動研究グループの試算では、海面上昇に伴う被害を最小にするには、堤防の建設など年間200億ドル(3兆2000万円)を投資しなければならないという。
しかし、上昇に備えて堤防を築くことのできる経済的に余裕のある国は世界の半分もないとみている。
洪水対策のために、海面から7〜9メートルも堤防を上げたが、温暖化に備えてさらに50〜80センチかさ上げする計画がスタートした。
費用は40億マルク(3600億円)かかると推定されている。
米マサチューセッッエ科大学の都市計画学科のグループは「1050年に水位が50センチ上がると仮定すると、ボストンには暴風雨の際に高潮が押し寄せ、食糧や水が不足し、通信も途絶え、家やハイウェーも冠水して、町では略奪や暴動が頻発する。
これを防ぐためには、道路や通信網などの重要な施設をかさ上げするしかない」と、警告した。
これに対して、経済界や建設業界がこぞって反対して大論争になったが、洪水の被害を受けやすいゼロメートル地帯へのビル建設禁止が決まった。
1980年代に入って、大気汚染と気象異変の関係が急速に意識されてきた背景には、全世界的な異常気象がある。
88年は米国各地が熱波や干ばつに襲われた。
とくに6月13日は、主要45都市で気温が38度を超え、歴史に残る「灼熱の日」となった。
ニューヨークなどでは、エアコンと水の使い過ぎから停電や断水騒ぎが頻発した。
高温の居座った中西部から東部にかけては、衰弱や熱射病などによる死者一万5000人を数え、これまでの最悪の熱波被害を出した。
農作物も15パーセントの減収となった。
これがとりもなおさず、将来の温暖化の「疑似体験」の役割を果たした。
この年は米国に限らず、世界的にみても異常気象続きだった。
まず、日本や欧州を含むユーラシア大陸の暖冬、これと対照的な北米の大寒波で年が明けた。
夏になると、日本では長雨と低温、中国南東部、シベリア、さらに欧州南部やオセアニアでは記録的な高温となった。
中国では各地で洪水の被害が続出し、7月に34度の史上最高気温を記録したソ連の北極圏では、家畜や野生動物が大量に死ぬ騒ぎになった。
干ばつの代名詞ともなっていたアフリカのサヘル地方(サハラ砂漠南縁の国々)では数十年ぶりの大雨に見舞われ、洪水の被災者が200万人以上と推定され、再び飢餓が広がった。
バングラデシュでは、未曽有の洪水で国土の6割余が水没した。
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